『東電全面撤退阻止』のデマを広めた朝日新聞 その1

国立国会図書館-NDL東日本大震災アーカイブ

国会事故調査委員会の最終報告書がでた。

大きな焦点となっていた『東電全面撤退』については以下のとおりにまとめられている。

 いわゆる「全員撤退」問題は、清水社長の曖昧な相談と、海江田経産大臣はじめ官邸側の東電本社に対する不信感に起因する行き違いから生じたものと考えられる。この問題を引き起こした最大の責任は、東電の最高責任者という立場でありながら、役所と手を握ることで責任を転嫁する傾向を持った東電の黒幕的な経営の体質から、「原子炉のコントロールを放棄しない」「最低限の人員を残す」という重大な事実を伝えられず、曖昧で要領を得ない説明に終始した清水社長にあるといえる。その意味で、このいわゆる「全員撤退」問題は官邸の誤解であったとはいえ、清水社長が自ら招いた出来事であるから、東電の側が官邸を一方的に批判するのはお門違いであるといわなければならない。

 他方で、菅総理が東電本店に来社し、覚悟を迫る演説を行う前には、既に東電は緊急対策メンバーを残す退避計画を立てており、菅総理が「全員撤退」を阻止したという事実は認められない。したがって、菅総理がいなければ東電は全員撤退しており日本は深刻な危険にさらされていたに違いない、といったストーリーもまた不自然であると言わなければならない。(pp.281-282)


妥当な結論であるといえるだろう。

東電本店と官邸の間に不信感が渦巻いていたのは事故直後から自分の目にも明らかであったし(参照)、東電幹部のコミュニケーション能力の低さも事故調の聴取などで多くの人が知っていることだと思う。

従って清水社長の曖昧な態度が「全面撤退」問題を引き起こした最大要因であるという結論は全く納得のいくものである。

ではなぜ自分がこれだけ「全面撤退」問題にこだわってきたかというと、菅直人らが証言を翻したりするなど極めて不誠実な行動をとっているにもかかわらず、「菅直人が東電の撤退を阻止して日本を救った」のような明らかに間違った主張が広まり当の本人達も平然とそれに乗っかっていることに対して非常に憤りを感じていたからである。

ちなみに、3月15日に官邸に呼ばれた清水社長が菅たちの前で撤退を否定したことを4月の参院予算委員会菅直人が認める答弁をしたにもかかわらず、その後一転して「総理が撤退を拒否して清水がそれを受け入れた」とま逆のことを主張していた件については、 「官邸5階に呼ばれた清水社長は、菅総理から撤退するのかと尋ねられた際、「撤退は考えておりません」とこれを否定した。」(p.313)など複数の箇所で明確に官邸サイドの主張は否定された。


■全面撤退に関する主張の大まかな流れ

この「全面撤退」問題は原発事故直後から官邸と東電側の主張が食い違いくすぶり続けた問題であった。

大まかに振り返ると以下のとおりである。

2011年3月17日政府と東電すれ違い、作業員退避巡り押し問答 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) :
事故発生直後から「全面撤退」かどうかでもめていたことがわかる

↓ 

2011年4月18日参議院予算委員会動画):
菅直人が「社長にお出ましをいただいて話を聞きました。そしたら社長は、いやいや、別に撤退という意味ではないんだということを言われました。」と答弁した。事故直後は食い違っていたが、菅が清水の撤退否定をみとめたこの時点で「全面撤退」問題は終わったはずであった。

2011年5月2日参議院予算委員会 (動画):
ここでも菅直人が、「ある段階で経産大臣の方から、どうも東電がいろいろな状況で撤退を考えているようだということが私に伝えられたものですから、社長をお招きしてどうなんだと言ったら、いやいや、そういうつもりはないけれどもという話でありました。」と答弁した。これも上と同じ。

2011年9月8日前首相の東電乗り込み、危急存亡の理由が : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞):
ところが菅内閣退陣直後の9月、終わったはずの「全面撤退」問題が再燃する。菅内閣で閣僚を務めていた枝野や海江田らその他大勢がメディアに「菅総理が東電撤退を阻止した」と猛烈に発信し始めたのである。


2011年9月13日9月11日放送 TBS「震災報道スペシャル 原発攻防180日間の真実」における報道について|TEPCOニュース|東京電力:
当然東電側も反発し自社のサイトでこれに反論した。




とまあ2011年の9月ごろまではこういう風に、菅が否定したにもかかわらず一応言い分が違うということでgdgdが続いていた。

ところが、ここであるマスコミが官邸サイドの主張を広報のごとく一方的に推しはじめる。

それが朝日新聞である。


■「菅による全面撤退阻止」というデマを広めた朝日新聞系の人間達

この「全面撤退を阻止した菅によって日本は救われた」というデマは大きく2つ、朝日新聞に連載された「プロメテウスの罠」と元朝日新聞主筆船橋洋一に率いられた福島原発事故独立検証委員会(いわゆる民間事故調)によって広まった。

朝日新聞の野心的試みとして話題となった「プロメテウスの罠」(参照)だが、官邸首脳と清水社長が官邸で会った場面をこのように描いている。

東電社長の清水正孝が官邸に着いたのは15日午前四時17分だった。

5階で首相補佐官の寺田が出迎え、清水はひとりで菅の待つ応接室に入った。

菅は「ご苦労様です。お越し下さり、すみません」とあいさつし、いきなり結論を告げた。

「撤退などあり得ませんから」

官房長官の枝野、経産相の海江田、官房副長官の福山と滝野、藤井、首相補佐官の細野らが同席していた。

「はい、わかりました」

両手をひざに置いた清水が、小さく頭を下げた。

枝野や海江田が主張したとおりの描写となっている。

この「プロメテウスの罠」の影響力はかなりあったようで、東京電力は2度にわたって「プロメテウスの罠」に書かれた全面撤退を否定するリリースを出している。

朝日新聞朝刊連載「プロメテウスの罠」について|TEPCOニュース|東京電力

朝日新聞朝刊連載「プロメテウスの罠」について|TEPCOニュース|東京電力



また、民間事故調は「全面撤退でなければそこまで繰り返し電話しないはず」という電話の頻度を根拠にして全面撤退の要請を推定してる。(実際は海江田経産大臣が着信拒否のようなことをしていたために何度もかけざるを得なかったのだが)。

そしてそれをもって以下のような評価となった。
【死んだっていい 俺も行く】原発危機的状況に前首相 東電が発言詳細記録 : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)

菅氏が撤退を踏みとどまるよう求めた発言と、対策統合本部の設置について、福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)は「(危機対応として)一定の効果があった」と評価している。

記事のブクマが菅絶賛一色なことからもわかるだろうが、民間事故調の報告書が出た後「やっぱり菅が正しかったんだよ」という声がかなり広がったのは確かである。


「プロメテウスの罠」も民間事故調も東電撤退については、東電が取材や聴取に応じなかったからという理由で官邸サイドの主張を丸々認めている。

しかし2011年9月3日の時点で既に東電側は全面撤退についての反論を載せており、それをみれば菅が参院予算委員会で清水の全面撤退否定を認めた国会答弁に容易に辿り着け官邸サイドの主張の危うさに気づいたはずだ。

にもかかわらず官邸サイドの主張を鵜呑みにしたのは、脱原発を掲げた菅内閣を擁護する意図が初めから朝日新聞側に大いにあったのではと自分には思える。

また、朝日新聞による「菅による撤退阻止」のデマ拡散は「プロメテウスの罠」と民間事故調以外でも行われた。

たとえば朝日新聞の提供する「WEBRONZA」(参照)である。

・小此木潔 朝日新聞編集委員

福島原発「悪魔のシナリオ」回避で菅直人氏の役割を検証・再評価すべきだ - WEBRONZA+経済・雇用 - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)


・竹内敬二 朝日新聞編集委員兼論説委員

東京を救ったのは菅首相の判断ではないか - WEBRONZA+科学・環境 - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)

「撤退するか残るか」。東電と菅首相が直面した究極の選択 - WEBRONZA+科学・環境 - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)

「東電撤退問題」、最終報告では内容が変わるか? - WEBRONZA+科学・環境 - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)

必死に「東電全面撤退を菅直人が阻止して日本を救った」と朝日新聞の編集委員や論説委員が訴えている。


朝日新聞は原発事故以降、大飯原発再稼動に絶対反対と訴えたりかなり反原発脱原発色の強い主張をしている。

朝日新聞による事故検証記事や論説委員らが電力会社よりも脱原発を掲げた菅内閣の言い分を鵜呑みにしたのも彼らの主義主張によるところが大きいのではないだろうか。

しかし、やはり事実は一つである。

政府事故調の中間報告ではさらりと「官邸の勘違い」とにおわされ、国会事故調の論点整理ではずばり「勘違い」と結論付けられてしまった。

これで困ったのが朝日新聞である。

朝日新聞渾身の事故検証連載「プロメテウスの罠」も民間事故調も官邸サイドの言い分を鵜呑みにして「菅による東電撤退阻止」が事故対応のターニングポイントとしている。

それが単なる「勘違い」となってしまえば原発事故に対する政府対応検証の根本が崩れてしまうことになり朝日新聞による事故検証の信頼性を著しく損ねる恐れがある。

国会事故調の論点整理から朝日新聞は非常に焦った。

それは外から見ても分かるほどだった。


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