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なぜ左派は負け続けるのか

なぜ日本の左派はこんなに弱いのか?ネトウヨが歴史を振返りながら考察するブログ

【最終まとめ】東電撤退という官邸の嘘 

政府と国会の事故調から最終報告がだされ、東電撤退問題に関する材料も出尽くしたと思われるので最後としてまとめてみたいと思う。


東電撤退問題で官邸側と東電側は一体何を争っていたのだろうか。

具体的な争点は唯一つ、「3月15日に官邸に呼ばれた清水が菅や枝野たちの前で撤退を否定したかどうか」ということだった。

官邸側の主張:東電側から撤退の打診がありそれを阻止する為に清水を官邸に呼びつけた。そこで菅が「撤退はありえない」と強く迫り清水に撤退しないことを認めさせた。そして撤退を検討している東電本店にも乗り込み東電職員達の前で演説し、東電の撤退を阻止した。

東電側の主張:官邸に呼ばれた清水は菅や枝野たちの前で「撤退ではない」と明確に否定し、官邸と認識を共有した。この時点で東電撤退という問題は存在しない。

現場の吉田所長は官邸に撤退しないことを伝えていた。

では東電本店は?

官邸で菅や枝野たちと直接会談した時に清水はちゃんと撤退は無いことを伝えたか。

それが東電撤退問題の争点だった。


以下「証言」で両者の主張をより詳しく見ていく。


■官邸側の証言

菅直人 元総理

東電事故調|菅直人オフィシャルブログ「今日の一言」

報告書では、3月15日未明の官邸での私と清水社長の会談で、清水社長が「撤退は考えていません」と発言したとしているが、事実は違っている。私から清水社長に「撤退はあり得ませんよ」といったのに対して、清水社長は「はい、わかりました」と答えた。この官邸でのやり取りには、海江田経産大臣、枝野官房長官、福山官房副長官などが同席し、東電からは清水社長一人であった。同席した人はあれだけ何度も「撤退」或いは「退避」について電話があったのに、あまりにもあっけなく「わかりました」と言ったことにびっくりしたと感想を述べている。

枝野幸男 元官房長官

前首相の東電乗り込み、危急存亡の理由が : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

枝野氏によると、清水氏はまず、海江田氏に撤退を申し出たが拒否され、枝野氏に電話したという。枝野氏らが同原発吉田昌郎所長や経済産業省原子力安全・保安院など関係機関に見解を求めたところ、吉田氏は「まだ頑張れる」と述べるなど、いずれも撤退は不要との見方を示した。

 菅氏はこの後、清水氏を首相官邸に呼んで問いただしたが、清水氏は今後の対応について明言しなかったという。このため、菅氏は直後に東電本店に乗り込み「撤退などあり得ない」と幹部らに迫った。

 枝野氏は菅氏の対応について「菅内閣への評価はいろいろあり得るが、あの瞬間はあの人が首相で良かった」と評価した。

細野豪志 元総理大臣補佐官
福島原発事故独立検証委員会 ヒアリング内容

撤退話が総理の耳に入ったのが 15 日の3時ごろなんですけれども、その時点で清水社長をここに呼ぶようにという指示が総理からあって、清水社長に来ていただきました。その場で総理は、撤退はあり得ないということを言って、その場で統合対策本部をつくると。今から政府が東京電力を乗り越えるからそれでいいなと、清水社長に言ったんですね。

福山哲郎 元官房副長官
福島原発事故独立検証委員会 ヒアリング内容

福山 評価するのは、私の上司ですからあまり言ってはいけないのかもしれませんが、14日の夜中に撤退を東電が言ってきたときに、東電を撤退させないという決断を総理がしたことは、私はやっぱり一定評価されてしかるべきだと思います。これは夜中の午前3時に、官房長官と経産大臣両方に東電側から連絡があって、撤退をしたいと。我々だけでは決められないので、総理に午前3時に執務室に集まってもらって、これは政治だけで議論しました。当時は藤井官房副長官も官邸にいらっしゃって、松本防災担当大臣を寄宿舎から呼び寄せて政務だけで議論したときに、総理はどなっていませんが、そんなことはあり得な
いと。作業を止めてほったらかしたら1号機、2号機、3号機はどうなるんだと。4号機の使用済みプールをほったらかすのかと。このまま水を入れるのもやめて放置して放射性物質がどんどん出続けたら、東日本全体がおかしくなる。そんなことはあり得ないと。最悪の場合には、決死隊をつくってでも作業を続けると。65 歳以上の人間ならば、多少放射性物質がかかっても、もう子供もつくらないだろう。最悪は自分が先頭切ってでも行かなければいけない。だから、今から東電を呼んでそのことを伝えようと言って、午前4時に清水社長に来ていただくというのが経緯です。清水社長にも決してどなってなくて、一言だけ「撤退などあり得ません」と総理が言ったら、清水社長は「はい」とおっしゃられた。

ただ海江田は一人、官邸での清水の撤退否定を認めている。

海江田万里 元経産大臣

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会会議録 第14号

楼井正史君 清水社長は、ごく簡単というか、撤退しないということを言われましたね。それについてどう感じられましたか?

参考人 (海江田万里君) 私はそのときに、若干気が抜けました。それは、大変やっぱりこれは重い決断でありますので、特にやっぱり残る場合は急性被曝なんかの可能性もありますので、そういうことを考えたときにどうなのかなというふうに、私が電話で受け取った話と違いますので、それはちょっとびっくりしました。


■東電側の証言

・清水正孝 元東電社長

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会会議録 第18号

参考人 清水正孝君 これは、実はその後の国会の参議院の予算委員会におきまして、四月から五月にかけてだと思いますが、この本件についての質疑が行われていると記憶しております。それは、私自身も参考人としていた委員会がございまして、菅総理のお答えは、撤退するつもりなのかと、今のくだりでございますが、そうしましたら、いやいや、私はそういうことは、清水はそういうことは考えていないと言ったと、たしかそういうお話をされたやに記憶しています。私は参考人としておりましたので、私が申し上げた物言い、あっ、そのとおりおっしゃっているなと、その場では受け止めました。
それが、ほかの委員会でもたしか同じような、言葉の違いは別にして、同じような趣旨はその国会の中で、予算委員会の中で御発言されているというのが私の理解でございます。

この清水が根拠としている4月の予算委員会における菅の答弁は以下のとおりである。

2011年4月18日参議院予算委員会:参照(30:00辺りから)

菅直人 「社長にお出ましをいただいて話を聞きました。そしたら社長は、いやいや、別に撤退という意味ではないんだということを言われました。」

■政府、国会事故調の結論

このように3月15日の官邸におけるトップ会談の中身について官邸側と東電側の主張は真っ向から食い違っていた。

政府事故調と国会事故調の最終報告はこれについてどのように結論付けたのだろうか。

まず国会事故調は

「3月15日4時17分ごろ、総理官邸において、菅総理と清水社長が面会した際には、菅総理と清水社長との間で全面撤退の予定が無いことが確認されている」(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書p.276)

「官邸5階に呼ばれた清水社長は、菅総理から撤退するのかと尋ねられた際、「撤退は考えておりません」とこれを否定した。」(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書p.313)

のように、清水が官邸で撤退を否定したことを認め、

東電の撤退問題は、全員退避か一部退避かという、官邸と東電間の意思疎通の不徹底が注目されてきたが、東電が退避の了解を求めるほど、原子炉が予断を許さない深刻な状況であった、ということでもある。このような状況下では、全員撤退が必要な事態に至る可能性を真剣に検討し、これに備えて、住民避難等の住民の防護対策に政府の総力を結集することこそ、官邸の役割であったのではないか。ベント、海水注入などの東電自身が対処すべき事項に関与し続けながら、一転して、東電社長の「撤退は考えておりません」という一言で発電所の事故収束を東電に任せ、他方で、統合対策本部を設置してまで介入を続けた官邸の姿勢は、理解困難である。(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書 p.35)

と断じている。

また、政府事故調も以下のように書いた。

その後、菅総理は、同日4 時頃、前記メンバーが同席する中で、官邸に到着した清水社長に対し、東京電力福島第一原発から撤退するつもりであるのか尋ねた。清水社長は、「撤退」という言葉を聞き、菅総理が、発電所から全員が完全に引き上げてプラント制御も放棄するのかという意味で尋ねているものと理解し、「そんなことは考えていません。」と明確に否定した。(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告 p.204)

政府事故調と国会事故調は清水が官邸で撤退の意思がないことを明確に示したと結論付けた。

つまり3月15日の官邸での会談を巡る菅や枝野たちの証言は嘘であると、政府事故調と国会事故調は判断を下したのである。


■東電撤退問題の全容

事故調の聴取や報告書など色々関係するものを読んできて東電撤退問題の全容は大体分かった。

大体以下のとおりである。

吉田所長と東電本店の間で余剰人員の一時退避が検討された。官邸に報告しておいたほうが良いと考えた清水は海江田に電話したが、退避と聞いた海江田は清水のはっきりしない物言いもあり全面撤退と勘違いした。そしてこの勘違いが枝野や細野たちに伝播した。細野は吉田所長に撤退の有無を直接電話で確認したが、吉田所長はまだ頑張れると答えた。東電本店が撤退しようとしていると考えた枝野たちは菅に報告し、菅は東電の撤退を阻止する為に清水を官邸に呼ぶよう言った。官邸に呼ばれた清水は菅に「撤退はありえない」と開口一番強く言われたが、「撤退ではない」と明確に否定した。しかし東電に対して強い不信感を抱いていた菅をはじめ官邸首脳陣は清水の否定に耳を傾けず、菅は東電本店に乗り込み「撤退するな!」と叫んだ。

清水が官邸で明確に否定し、それを菅たちも一応認識していたことは事故後の参院予算委員会で菅自身が答弁している内容からも分かる。しかし、菅内閣が退陣した9月ごろから菅、枝野、細野、福山ら当時の官邸首脳達が東電撤退問題を主張し始め、菅が東電の撤退を阻止して日本を救ったといい始めた。そしてトップ会談で清水が否定したことは、菅が「撤退はありえない」と強く迫り、清水が「はいわかりました」と受け入れたというストーリーに変えられた。当然だが東電側は菅の国会答弁を根拠に反論した。そして朝日新聞などのメディアが官邸の主張を原発事故検証記事などでそのまま流したためにこの東電撤退問題というのは広く知られるようになった。ここから東電撤退問題は原発事故対応の最大の焦点となっていった。

しかし、やはり菅自身が清水の否定を認めた答弁が決定的だったのだろう。政府事故調も国会事故調も清水が官邸で撤退を否定し、菅や枝野たちと認識を共有したと結論付けた。そしてこの時点で、菅が清水に「撤退はありえない」と強く迫り清水に撤退を断念させ、東電本店に乗り込んで逃げようとする東電職員達に喝をいれ撤退を阻止した、という官邸側のストーリーは完全に否定された。


■なぜ官邸は嘘をついたのか

なぜ菅や枝野たちは証言を翻してまで東電撤退問題を主張したのだろうか。

それは単純に後世の批判を恐れたからだろう。

誰が見ても菅と官邸は過剰介入しすぎて命令系統を混乱させており、事故対応の検証で非難されるのは明らかだった。

この過剰介入を正当化するためには東電の当事者意識の無さを強調するしか道はない。

東電が現場を放棄しようとしたということなら福島原発視察も東電怒鳴り込みも官邸の対応は全て正当化される。

菅の評価は菅内閣の評価であり、内閣の一員である枝野や福山、細野たちの評価に直結する。

彼らは一蓮托生だった。

彼らは官邸での会談で清水が撤退を否定したことを、否定しなかったと置き換え「菅による東電撤退阻止」という都市伝説を作り上げた。

菅が日本を救った英雄となれば内閣の一員である彼らもまた英雄となる。

しかしこの目論見は「清水は撤退といわなかった」と菅自身が国会で撤退否定の認識を共有していたことを認めた事実が出てきて呆気なく崩れ去った。


■最後に

東電撤退という問題に疑念を抱き、一年近くウォッチを続けてきたが、まあ落ち着くべきところに落ち着いたと思う。

確かに誰が総理で誰が官邸にいてもあの事故では完璧に対応するのはまず不可能だったろう。

誰であっても事故対応の批判は避けられなかったと思う。

東電本店も保安院も原子力安全委員会も官邸とコミュニケーションが上手くとれなかったことも上手く機能しなかったことも確かだろう。

しかし、不信感を募らせた官邸が暴走し現場に介入し混乱がより広がったのも確かなのだ。

嘘をついてまで自分達の行動を正当化させるのは全く愚かなことであり批判されるべきものだと考える。

菅内閣は退陣するとき以下のような首相談話を決定している。

朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?

閣議では総辞職にあたっての首相談話を決定。談話では震災や原発事故対応を取り上げて「必ずしも十分な対応ができなかった点については大変申し訳なく思っている」と陳謝。その上で「歴史がどう評価するかは後世に委ねるが、私をはじめ閣僚全員は持てる力のすべてを挙げて誠心誠意取り組んできた」と訴えた。

評価は後世に委ねると言うならば、真実を述べるべきだろう。

時の権力者たちが虚偽を述べ自分達の評価を少しでも良くしようなどというのは、歴史に対する罪いがい何者でもない。


今回の東電撤退問題は色々学ぶところがあった。

権力者は平然と国民をだます。

国民も意外と簡単にだまされる。

そして普段は上から目線のはてなーたちも意外とメディアリテラシー低いなというのも分かった。

未だ菅が日本を救ったと健気に信じている人たちを見ながらこの言葉が自分の中で浮かんでいる。


嘘を嘘と見抜けないと難しい(戒め)